3つ星レストラン。一生無縁なレストランと思っていが、地元の町で腕の立ったフランス料理のシェフの一言
で考えが変わりはじめた。フランスで修行した彼にいわせれば、「ああいう古典的なレストランには一度はね」。レストランのWEBを見れば、たしかに高いものの、まったく手の届かない値段ではない。清水の舞台から飛び下りるほどに、大枚をはたく決意を固め、リヨンまで出向く。
料理はアルカルトもあれば、定食もある。アラカルトで2品頼んでも、その後、定番のチーズ・デザートとつなげば、120euro前後はする。定食の最安が、前菜・主菜・チーズ・デザートで105euro。ただし、選べる皿の選択肢は狭い。155euroになると、前菜・魚・肉・チーズ・デザートとなり、皿の選択肢の幅も大きく広がる。195euroは、選べないコース。
当初、105euroでつましくと考えていたが、連れがオマール海老のサラダを食べたいと言い出す。オマール海老のサラダは60euro以上するうえに、最安105euroの定食の選択肢にはない。これだとアラカルトでまとめた場合140euroくらいはする計算になりますから、いっそのこと、とばかり、オマールのサラダも選べる155euroの定食に。
最初に、付きだし。ニンジンとカボチャの小さなスープ。中に、栗のかけらが入っている。これに、チーズ味のパイのようもの。この付きだしを口にしただけで、これからの料理について、想像がついた。バターは塩分の攻勢にどう対応するか。
前菜は、連れのほうは期待のオマール海老のサラダ。たっぷりと身が盛りつけられ、真ん中に野菜を切り刻んだもののマヨネーズあえ。うまかったそ
うだ。
私はフォワグラにパン生地を敷いたもの。そばに軽く焼いたブドウがちりばめてある。ひたすら脂を食べている感じ。しつこい。
つづいて魚。つれはホタテの焼いたもの。下にたっぷりのバターソース、ホウレンソウの付け合わせ。
私は、カリカリのジャガイモ片で表面を固めたヒメジを、たっぷりのバターソースの中に浮かべた皿。このレストランを紹介する雑誌記事で挙がっているもの。じつは、これが食べたかった。そりゃあ、しょっぱくもあり、濃厚さに辟易する部分もあるが、正直美味しかった。使われているバターの量はすごいだろう。塩も、京都の「餃子の王将」を彷彿させる使い方。その塩辛いバターソースをイモと魚肉につけながら、全部平らげた。ワインと水に助けられたとはいえ、それくらい胃の腑に落ちる何かがあった。
肉は、共通で、牛のあばらロースをシチュー鍋で料理したもの。2人分からの注文料理。
テーブルの近くで取り分け、盛りつけてくれる。付け合わせには肉以上のポリュームのイモとニンジン。盛りつけは、どう贔屓目に見てもきれいとはいえない。脂の強さと塩ッ辛さは相変わらずだが、食べているうちしだいに「まあ、こんなものか」と思えてくるのが、怖いところ。さすがにイモは少し残した。また腎臓とおぼしき部位があり、ホルモン好きにはたまらないだろう。が、ホルモンが苦手の私はこれには白旗。
このあと、チーズのワゴンサービス、デザートのワゴンサービス。デザートは、ひたすら重く、甘く、食後のコーヒーをこれほど待ち遠しいと思ったことは、いつ以来か。
ワインリストはもちろん分厚く、豊富な品揃えとなんていますが、若いワインが多めのような気がした。ブルゴーニュでいえば、大手ネゴシアンが中心。連日、多くの客にワインを提供しなければならないから、生産本数の少ない銘柄は入れにくいのか? やや残念なところ。ちなみにアルザスのゲヴァルツラミネール2000が90euro。ブルゴーニュのジュブレ・シャンベルタン2003(アルマン・ルソー)が120euro。シャンパン1杯16euro。水7euro。コーヒー6euro。
味だけでいえば、いまの日本に、このレストラン以上の店はかなりあると思う。地方の10万都市にだって、下手すればある。いまの日本でこんな塩ッ辛く濃厚な成人病一直線の皿を出して、流行るとはとうてい思えない。値段のことも合わせて、私自身また行きたいレストランかというと、その反対。
だからといって、このレストランを名前だけの店とは思わない。古き時代を伝え、伝統を受け継ぐ名店として評価はしなければならない。昔のフランス人が、この料理に驚き、感激したのだと想像するだけでも、なんとなくフランスに行った気になるものだ。一つの歴史遺産だろう。お金に余裕があるなら、半ば怖いもの見たさで行くのも悪くないかも。いまの時代を生き、食べるという意味が、わずかながら見えてくるような。
タクシーでレストランの前に付くと、赤と緑のけったいな建物にびっくり。よくいえばコロニアル風。家内にいわせれば、シンガポールのタイガーバーム宮殿を思わせるような。私にいわせれば、悪趣味。ただ、これもレストラン内部へ足を進み入れたときの驚きを大きくするための演出なのかもしれないが。
内部はキンキラキンの超豪華。なんとはなしに圧倒された。黒服と白服が忙しそうに、かつ優雅にあちこちを動き回っている風景を眼前にすると、私ごときが来てもいい場なのか、一種ドギマギした。
日曜の夜。着飾った人たちもいれば、セーター姿の地元民風も。20時過ぎに到着したが、すでに4分の3以上は埋まっていた。
この日はリヨン市内で15時からオペラがあった。21時すぎには、そのオペラがはねてからとおぼしき客もゾロゾロ入ってきた。日本から30代くらいの夫婦も来ていた。最初は私らのテーブルの隣に案内されていたが、東洋人のテーブルが2卓並ぶのは見てくれが悪いとでも思ったのか、離れたテーブルにあらためて案内されていた。
どのテーブルを見ても、幸せいっぱいという感じ。たしかに優雅な雰囲気が人の心を解放させ、高い金を払った分、楽しまにゃ損という思いも少
しはある。でも、人の幸福そうな姿を眺めているのは、なんとなく楽しいものだ。
トイレへの途中には、ポール・ポキューズのロゴ入りの皿等が並べられ、値段がついている。ちなみに、客の使うすべての皿やグラスには、ポール・ポキューズのロゴが入っている。
(スタッフのようすや対応) = スタッフを見ているだけで、ある意味このレストランに来た甲斐があった。味のことは棚にあげて、3つ星レストランの品格を支えているのは彼らだと思う。黒服と白服の数は、客の数以上ではないか。つねにテキパキと動き、笑顔も忘れない。料理の見てくれがどこか田舎風であるのと対照的に、スタッフはスマート。
レストラン内を、ときどきコック帽をかぶった老人がヨタヨタと歩いている。ポール・ボキューズ本人のようで、各テーブルにも挨拶に来た。かなりの老齢にして何度も動き回るのは、立派といえば立派。日本人カップルは握手をしてもらい、一緒に写真におさまったようだ。
(日本語・英語対応) = フランス語のメニューをもらったが、英語メニューはあると思う。英語は大丈夫のようだ。
(予約方法) = レストランのWEBから。その後、返信も何もなく、不安になり、一度電話でリコンファームを入れたら、席はとれているとのこと。前日にもう一度リコンファームするよう、いわれた。前日にできず、当日の朝10時に入れたところ、ちゃんと人がいて、応じてくれた。
(10点満点で何点?) = 7点。歴史遺産としての奮発点。
(アクセス) =一般的には、 リヨン市内からタクシーで行くしかない。日曜の夜で25〜30euro。往復60euro、ユーロ高のいま悔しい出費。ソーヌ川に沿った道を長く走り、鉄道の下をくぐったと思ったら、いきなり見えてくる。20分くらい。
(支払い方法) = クレジットカード可。
(その他) = 皿と皿の間の時間が、少し早すぎるような。もう少しゆったりと出してもらったほうが、もっと楽しめたのに。ここがマイナスの一つ。
ポール・ボキューズの建物自体なら、リヨンからディジョン方面への鉄道列車からも見える。リヨンのパール・デュー駅を出てしばらくすると、トンネルを潜り、ソーヌ川を越える。そのとき右手に、民家の並ぶ中、赤と緑の 「けったいな建物」が目に入る。
じつのところ、ポール・ボキューズに行こうと決めたのは、日曜も営業しているからでもある
(2006年10月下旬 葦原のしこお様) |