ディジョンの少し町外れ、ウィルソン広場にあるミシュラン1つ星レストラン。夕食に。じつは、この3年つづけて11月に訪れています。3年つづけて食べてもいいと思えるのは、味もさることながら、つねに好奇心を刺激してくれるからでしょう。舌だけでなく、目にも脳にも挑発的なレストラン。そして、今年は明らかに和を取り入れている。
店内は、いつもこの時期は、茶色でシックにまとめられている。テーブルクロスも茶なら、出迎えのガラス皿も茶。テーブルクロスの上には、枯れ葉を葉脈だけにしたものが、さっと散らしてある。ここまでは前年と同じだが、店内にも少し和が入っていた。今年はどこか日本の生け花を意識した花瓶が随所に飾ってあった。
アラカルトもあるが、ほとんどの人は選べる定食を頼んでいるようだ。前菜、主菜、デザートで55euro。これに肉か魚をもう一品足して65euro。一度65euroに挑戦したいとは思いつつ、安易に55euroの定食へ。ほかに45euroの選べる定食もあるが、エスカルゴが登場しどこか観光風のメニューになっている。
最初に、揚げ物のようなもののが4種。一つはチーズ味の丸いパイのようなもの。もう一つは、カレー風味のものを中に練り込んだスティック状。あと、一瞬だけピザを思わせる薄いおせんべい状のもの。味はチーズのようなそうでないような。それと、ポテトサラダ風を挟んだミニミニ・バーガー。全部食べると、ちょっとくどい気もしますが、食欲を点火させる。
お通し3品が1皿にのって出てくる。いつもこれには驚かされる。美味い、不味いを通り越して、脳を圧倒してきます。「いったい、これは何」「へぇー、こんなのもありなんだ〜」という感じ。
今回は、ここに和風の実験が。左側には、明らかに和風の小鉢に、たっぷりの冷たいアボガドソースで刻み野菜(正体不明)を和えたもの。中身はフレンチなのに食べていくと、どこかに和のテイストが舌に残る。おかしいなと思ってアボガドソースを点検していくと、中に生の魚卵がまぜてあります。魚卵の少し生臭い風味とブツブツの食感のおかげで、このフレンチ小鉢が本当に和風の小鉢に変身しているような。
右側には、銘々皿風のものに、フレンチ式の刺身といったところ。おそらくは、スズキ系。細長く切った刺身を丸く輪状にし、その中に刻み野菜、こまかく砕いたピーナツに少し酢をかけたかのような。要は味付け刻み野菜をタレに、刺身をナイフとフォークで食うわけですが、これなら京都の先鋭的な和食屋でもありうるかと。じつに、淡白にして風雅。ピーナツのかすかな脂は、全体があまりに淡白に流れないよう下支えしている。
真ん中には、小さなビーカー状のガラス器に入った温かい飲み物。こればっかりはトマト味で、大胆な和はなし。唯一、上にライスパイのスティックを添えたところくらい。
私の前菜は、フォワグラを焼いたものの下に甜菜(テンサイ)を敷いたもの。さらに、甜菜の天ぷらつき。メニューには天ぷらと記してあるが、どう見てもフライなのは同じディジョンのシャポー・ルージュと同じご愛嬌。ソースに果物系を2種使っていて、フォワグラのいやらしさをうまく緩和している。フォワグラの脂のまじった残りのソースを思わずパンにつけて食べてしまったほど、芯もあれば華もある味だった。
このレストランで3年つづけてフォワグラを食べたが、毎年、味と演出が少しずつ違えてある。フォワグラ好きでない私でも、ここのフォワグラはわりにすんなり食べられる。(逆にいえば、選択のメニューが少ないということでもありますが。)
連れの前菜は、レマン湖のエビを白ワインで蒸したような。エビミソを使った濃いソース。添え物としてタリアテッレとあるが、タりアテッレの正体は小麦粉ではなく、人参と大根。人参と大根を長々とパスタ状に細長く切り、よくもフレンチのソースとからめたと思う。味以上に、うむ、感心といったところ。
私の主菜は、ハトの焼いたもの。和の入った真四角の広い皿の中央部にハトの薄着り肉があり、下にはキノコが敷きつめてある。左横にはワカメが添えられ、右手にはつけあわせの野菜。ほかに、湯飲み茶碗風の容器が皿に乗っている。中には2種の豆が入っていて、最初は清澄、あとに濃厚に響く。ハトの肉は、思いのほかクセがない。3分の2以上食べ終えたころ、ふたつきのコンソメスープが出てくる。中には、ハトの足が入っていて、これが美味。スープ自体はやや甘めで、この日一番の違和感があった。
連れの主菜は、乳飲み牛の焼いたもの。下には野菜のみじん切りがあり、ニンジンのピューレ、ワカメとトリュフをあえたようなものもついている。やはり、豊潤な味。
このあと、チーズのワゴンサービスがありますが、もはや胃袋がきついのが残念。デザートは、かなり大きめのカクテルグラスに3種を積み重ねたようなもの。一番下には薬草系のソルベ、中層には刻んだ洋梨、一番上には柑橘系の薄切りを乾燥させシロップづけにしたもの。シャポー・ルージュのデザートと一見似ているが、食べれば別物。試食した連れによると、豪快にして繊細、美味とのこと。
連れのデザートは、蜜蜂の巣を模した見た目に楽しい皿。真ん中には蜜蜂の巣を模したクッキー状のものがあり、中身はハチミツ味のシャリシャリして澄んだ風味のソルベ。皿全体にはなにやら蜂の巣っぽいデザインを施したクリームがしいてある。クッキーを崩してクリームにからませると、芳醇とのこと。皿のあちこちには、働きバチをかたどった小菓子がちりばめられて
います。(前年まではデザートのまえにショコラ系の飲み物が3種ついていたのですが、今回はなし。少しホッとした。)
このあと、小菓子がつくので、コーヒーを頼んだら、ここでまたびっくり。コーヒーのまえに温かい小さな飲み物2つ出てくる。一つはニッキ系、もう一つは柑橘系の甘いものが下にとどったようなもの。いずれも、底の平べったい小さな試験管のようなガラス容器。飲むとスッとするのは連れの弁。私にすれば甘いものには違いありません。(もしかしら、コーヒーについたのではなく、デザートのしめなのかもしれません。)とはいえ、最後まで、サプライズを入れてくれる店です。
ワインリストは、ぶ厚い。ブルゴーニュだけでなく、アルザスワインなどもしっかりと入っている。2004年はジョルジュ・ルーミエの96年リュショット・シャンペルタン137euro。2005年はジョセフ・ロティの88年マジ・シャンベルタン127euro、トロボーのサビィニ・レ・ボーヌ1級畑が55euro。納得以上の値段。
今回は、白赤という順番をやめ、赤赤とつづけて頼んだが、違和感はないようだ。
ちなみに、クレマン・ド・ブルゴーニュ1杯8euro。水7euro。赤のグラスワイン1杯8euro(サヴィニ・レ・ボーヌ。力のある上品なワイン)。
(店内の様子・客層) = 多くは地元客では。老若男女いろいろ。10人くらいのグループ客も2組いて、1組は2階に通されていた。犬連れの老夫婦もいたが、ラプラドール・レトリーバーのおとなしいこと。ときたま かすかに尻尾を振るくらいで、目立たずテーブルの下で寝そべっていた。帰ったのは24時前ですが、これからようやくチーズを楽しむというテーブルもあり、宴は何時までつづくのだろう。
(スタッフのようすや対応) = どちらかというとカタブツ系で、あまり愛想がない。
メニューをとりにくる中年男性にしろ、ワインを聞く年配の女性にしろ、笑顔に乏しい。が、よくいえば実直。ただあまり気はつかず、水は自分で入れることがしばしば。(テーブルの上にあるからラク) ワインだけはきっちり注いでくれる。また、こちらの言うことは、きちんと聞いてくれる。ディジョンという田舎町らしいスタッフといえば、そうなのでしょう。このスタッフがいるかぎり2つ星昇格は無理と思ったが、それはそれでいいのでは。
マダムはよく見れば年配だが、どこか娘さんの雰囲気を残した人で、ときどきテーブルに声をかける。見送りもして、ほめ言葉を送ると、年頃の女性のようなうれしそうな笑顔。
(日本語・英語対応) = 主席の給仕とマダム以外は英語は不得手のよう。メニューは仏語のみ。
(予約方法) = 日本から電話で。一回だけ、英語と仏語のメールで予約を申し込んだが、なしのつぶて。しかたなく電話で。英語と仏語のちゃんぽんでも、なんとかなる。こちらが「メルクルディ」といえば、向こうは「ウエンズディ」と返してくる。
3回訪れたうち、2回は満席、1回は半分の入りでしたから、予約するに越したことはない。
(10点満点で何点?) = 9.5点。ただ値段は毎年少しずつ上がっている。私の食べた定食は、一昨年は48euro、昨年は53euro、今年は55euroになっていた。安いことには違いないが。欧州に来る機会があれば、行程をいじり、なんとしてもディジョンへと考えている。
(アクセス) = 中心部からやや外れた、ウィルソン広場に面している。隣は、ホテル・ウィルソン。
ダルシー門周辺のホテルからなら、リベルテ通りを東に行き、オペラ座の前で右折、シャボ・シャミ通りを直進すると、ウィルソン広場に。
本当はごちゃごちゃした小路を抜ける近道もあるが、夜に一発勝負は少々無茶な気がする。市街の小路はけっこう曲がりくねるから、迷ったらリカバリーが大変。近道を使うなら、観光もかねて昼に一度下調べをしたほうがいい。面倒くさいなら、さっさとタクシー。ウィルソン広場は交通量が多く、気をつけたほうがいい。
(支払い方法) = クレジットカードOK。
(その他) = ディジョンの1つ星レストラン3つにボーヌの1つ、言ってみれば四天王はみな秀逸なのですが、私見では、ここが一番。
(葦原のしこお様 2005年11月上旬)
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